常在戦場

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常識を疑えっ!!奇襲はなかった!?『信長の戦争』

信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)

 

今回は『信長の戦争~『信長公記』に見る戦国軍事学~』を紹介したい。自分の好きな本の多い講談社学術文庫の中でもかなり衝撃的な内容だった。

 
桶狭間合戦織田信長今川義元が戦った、戦国時代における有名な戦の一つだ。
この戦いにおいて「織田信長今川義元を奇襲をして倒した」というのは一般常識になっている。
ドラマや小説、ゲーム等で信長が出ると必ず奇襲のエピソードが入る。
でも、これが後世の創作だったら?
 
本書では桶狭間における信長の奇襲を否定する。それを『信長公記(しんちょうこうき)』という信長の伝記を使って論証していく。『信長公記』はもっとも古く、信頼できると言われている史料なので、著者の主張には説得力がある。
 
まず、奇襲の定義だが、
[名](スル)相手の油断、不意をついて、思いがけない方法でおそうこと。不意打ち。「敵の背後から―する」「―攻撃」 出典:デジタル大辞泉
となっている。つまり、奇襲とは相手が意図しない方法で攻撃すること。『信長公記』には信長が奇襲したとは書いてない。
それどころか、『信長公記』を読む限り、信長は真正面から今川義元と戦ったのだ。そして信長が勝てたのは(様々な要因があるが、一番大きいのは)運が良かったからだと本書では言う。
 
奇襲というのは江戸時代に書かれた小説『甫庵信長記(ほあんしんちょうき)』
が最初とされている。これは今風にいえば信長公記』の二次創作。『信長公記』をベースに脚色されている。こちらのほうが有名になってしまったのだ!!
 
なぜこんなことが起こってしまったのか? それは『甫庵信長記』のほうがわかりやすいし、おもしろいからだ。『甫庵信長記』の信長は合理的で、矛盾した行動せず、スマートに勝利を収める。物語としては間違いなくこちらのほうが上だろう。一方『信長公記』では勘違いをしたり、間違いを犯す、信長のリアルな人間像が書かれている。
 
また、「戦場の霧」というものがある。これは『戦争論』でクラウゼヴィッツが言っている、戦いにおける不確定要素のことだ。人工衛星やレーダーなどを使う現代戦でも、この「戦場の霧」は無くならない。ましてや戦国時代のことだ、戦いにおける不確定要素は多いはず。運良く勝てたとしても不思議ではない。
 
本書では桶狭間以外にも、美濃攻め、姉川合戦、長嶋一揆攻め、長篠合戦、本願寺攻め、本能寺の変といった、信長が関わった戦についての考察が一通り載っている。信長の戦をなぞることによって、信長に対するイメージも変わってくる可能性がある。また本書を読むことによって、戦国時代の戦の常識がわかるようになっている。

 

信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)

信長の戦争 『信長公記』に見る戦国軍事学 (講談社学術文庫)